2025年10月14日(火)~10月25日(土)まで、田口BOSS・田口ジジによる二人展「いまここ、これから」を開催いたします。
田口BOSSと田口ジジは熊本県在住の夫婦。両人とも仕事を引退してから独学で絵画制作をスタートし、今回がギャラリーでの初の展示となります。
田口BOSSは「記憶の塊」、田口ジジは「再生」をテーマとして、紙と色鉛筆・ペンという私たちにとっても身近な画材で描かれた作品を展示いたします。
両人とも画材や小さな円形の集合体という細かなモチーフは共通しているものの、一方は有機生命体や細胞ダイナミクスを想起させ、他方は静的でソリッドな深い内省を伴う精神世界を感じさせます。
10月17日(金)17時頃からはささやかなオープニングパーティーを開催いたします。
また、10月18日(土)は田口BOSS・ジジが在廊予定です。ぜひお誘い合わせの上お越しくださいませ。
【ステートメント】
絵画表現については、二人とも未知の世界だった。
今更、不用意に素人が立ち入れないであろうとも感じていた。にもかかわらず踏み込んだ。
人生の往生際が悪いのかもしれない。
「叩けば埃のでる身体」という言葉があるが、70年以上も生きれば、多分二人とも身も心も埃だらけであろう。
フロイトによると、夢の機能は願望充足らしい。
では、例えば、怖い夢はどんな願望と繋がっているのだろうか?
夢の中の恐怖は一種の表出表現で、過去の出来事と結びついた記憶の中の恐怖こそ、無意識の中で蠢いている生きた感情なのかもしれない。
心の中には、恐怖以外のさまざまな感情もあるだろう。
そして、概ね無意識の領域はコンプレックスと夢(希望)の世界である。
絵を描くことは、自分を表現すること、探究することだと思う。
「 いまここ、これから 」
いずれも無意識の未知の世界である。
【作家プロフィール】
●田口BOSS
1945年生まれ、熊本県在住
70代に仕事を引退し、2019年、生活の変化をきっかけに絵を描きはじめる 身近にあった、ペンや色鉛筆を使った絵画を6年で400点ほど描く
・「FINE LINES」( 2023 / CAVIN-MORRIS GALLERY . NY )
・「Outsider Art Fair NY」( 2023 / represented by CAVIN-MORRIS GALLERY .NY )
・「超老芸術展」( 2023 / アーツカウンシルしずおか .静岡 )
・「誰も知らない」( 2022 / 熊本市現代美術館 . 熊本 )
2023年ニューヨークのCAVIN-MORRIS GALLERYと契約、取り扱い作家となる
●田口ジジ
1950年生まれ、熊本県在住
2022年より、絵画の制作を開始
・「熊本市⺠美術展 アートパレード」入選 / 優秀賞(2024 / 熊本市現代美術館)
【開催概要】
田口BOSS・ジジ 二人展「いまここ、これから」
会期:2025年10月14日(火)~10月25日(土)※日月休み
場所:タナベ画廊 東京都千代田区神田北乗物町1-1 イトーピア神田共同ビル1F
オープニングパーティー:10月17日(金)17時頃~
作家在廊予定:10月18日(土)
展覧会協力:BankART1929
【ご紹介文】
今年80歳になる田口ボッスは独学で絵画制作をはじめ作家活動6年⽬にして膨大な数の緻密な作品を制作し続けています。またその夫⽥⼝ジジは作家活動2年⽬にして既に100点を超える作品を続けています。
田口ボッスの描く細胞あるいは小宇宙を思わせる有機的で繊細な世界感。
田口ジジのミニマルアートのような作品と、それと相反する一見すると幼児の落書きのようにも見える奔放な作品。
そこには、素人に陥りがちな自己模倣やその逆混沌や混乱はありません。
絵の中で思考し楽しみながら作る。
そのことで、見るものに絵が生まれる喜びだけでなく、細胞分裂的に代謝し変化していく画面の不思議さと恐ろしさを感じさせます。
田口ボッスは2019年ごろより本格的な制作を始め、一枚4-5日ペースで、年間約50-80枚の制作を続けて来ました。これまで描き上げた総数は大小400枚を超え、またそれに伴い2023年ごろから本格的な制作を始めた田口ジジも同様かそれを上回るペースでの制作を続けています。
その継続力には目を見張るものがあり、一見同じように見える作品たちも様々な変化を遂げ、恐るべき密度と集中力で形作られています。
田口ボッスはこれまで熊本現代美術館、NYのギャラリーなどでのグループ展での発表やweb版美術手帖、NHKテレビで紹介はありましたが、田口ジジは、ほぼ未発表となります。
今年で80歳と75歳になった2人は、今日も熊本のマンションの一室で黙々と絵を描いています。
是非この2人の画家のギャラリーでの初展示を多くの人に見ていただきご意見ご感想を頂けけたらと思います。
淺井裕介(現代美術作家)
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田口BOSSの作品は、人生のどの段階からでも、人は輝けるのだということを示している。熊本地震という極限的な状況を経て、「絵を描きたい」という長年の想いを実現した彼女の生き方は、僕たちにどう歳を重ねるかという大きな示唆を与えてくれる。
油彩画の道具が被災したため、代わりに選んだのは身近な色鉛筆だった。その作風は、キッチュで独創的な色彩と、まるで細胞や未知の生物のような有機的な形態が特徴と言える。これらのモチーフは、彼女の内面世界や生命の根源的なエネルギーを視覚的に表現しているかのようだ。
その創作は、これまでの人生遍歴と、絶えず貪欲に吸収し続ける好奇心を映し出している。「毎日描いていたい」と語り、自分のためだけに続けてきた創作は、ニューヨークの画廊での取り扱いや本展の開催に象徴されるように、多くの人の心を震わせ、周囲に影響を与えている。そして、その才能に触発された夫もまた、新たな創作の道を歩み始めているから驚きだ。
後悔のない人生とは、さまざまな喪失を経験した時にこと、本当に大切にしたいことと真摯に向き合い、実践していくことなのだろう。老いてなお、その姿はますます創造的なのだ。
櫛野展正 (アーツカウンシルしずおか チーフ・プログラムディレクター)
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2022年に田口BOSSの作品を初めてみた。熊本の町のどこかに、こんな絵を描く人が眠っているのかと驚いた。あるものは植物の器官、あるものは人間の内臓のようにも見えた。またあるものは、目鼻のついた生き物の形をし、自由自在に動き回り、おしゃべりやざわめきが聞こえてきそうな気すらした。
髪の隅々までそれらのモチーフで埋め尽くされるが、そこには不安や息苦しさはなく、秩序と無秩序の間に佇むような、安寧な心持ちすらしたのが印象的だった。
一体どんな人物が描いたのかと会って見ると、先入観とは裏腹に、熊本で幼児教育に長年携わってきた、快活でエネルギーに溢れる人だった。「なんでこんな絵を描くかわからない」とBOSSは言うが、多くの子どもたちを育ててきたBOSSは、素晴らしい輝くような体験や、無念極まりない経験を通して辿りついた人生の総仕上げに、再び自身の「内なる子ども」と毎日、真剣勝負で遊んでいるのではないかと思えた。
そんなBOSSに影響されて、最近はパートナーのジジも絵を描き始めた。シュルレアリスムの自動筆記的なBOSSの描き方と異なり、理論家らしい構想や計画のもとに描きはじめるジジの抽象画は、その純粋さが人の心を捉え、今や、市民美術展の常連入賞者である。長年、支え合ったBOSSとジジが、クリエイター同士として互いに刺激を与え、いい意味で競い合う姿は、どこか羨ましくもある。
坂本顕子(熊本市現代美術館学芸員)
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